マルチキャストとブロードキャスト — 全校放送か、部員だけのインカムか
1つのデータを複数の相手に届けたいとき、送り方は3通りあります。1人ずつ個別に送るユニキャスト、全員に一斉に流すブロードキャスト、そして聞きたい人だけに流すマルチキャストです。
学校で言えば、1人ずつ電話をかけるか、全校放送をするか、部員だけが付けているインカムで話すか。図1で送り方を切り替えて「放送する」を押し、放送室の手間と関係ない人の迷惑がどう変わるかを比べてください。
ユニキャスト — 確実だが、送り主が疲れる
ふだんの通信はほぼすべてユニキャストです。宛先は1台だけ。10人に届けたければ同じデータを10回送ることになります。図1で部員を増やしてから放送すると、放送室から同じ荷物が何個も連なって出ていくのが見えます。
Webページやメールのように相手ごとに中身が違うならこれで問題ありません。困るのは全員がまったく同じものを同時に欲しいとき――ライブ映像や株価の配信です。1000人いれば1000回。回線も送り主も、同じものを運ぶためだけに埋まります。
ブロードキャスト — 1回で済むが、全員を起こす
ブロードキャストは宛先に「全員」を指定します。送るのは1回だけで、スイッチが同じ校舎の全端末へコピーしてくれます。そのかわり、関係ない端末も受け取って中身を確かめ、捨てる羽目になります。図1の ✕ がそれです。
もう1つの特徴は、ルーターを越えないことです。全校放送は別の校舎には流れません。インターネット全体に放送できたら大混乱になるので、わざとそう決められています。DHCPで最初にアドレスを探すときや、ARPで「このIPの人は誰?」と叫ぶときのように、同じLANの中で相手が分からないときに使われます。
マルチキャスト — 聞きたい人が手を挙げる
マルチキャストでは、宛先にグループのアドレス(224.0.0.0〜239.255.255.255)を使います。受け取りたい端末は、あらかじめ「このグループに入ります」とルーターに手を挙げておきます(IGMP)。
放送室は1回送るだけ。コピーは道が分かれるところでだけ作られ、部員がいる方向にしか流れません。部員が別の校舎にいれば、ルーターがそちらへも中継します。図1で LAN 2 の部員を全員外すと、ルーターの先にはもう何も流れなくなるのが確かめられます。
便利な仕組みですが、インターネット全体では普及していません。途中のすべてのルーターが対応している必要があるからです。主な活躍の場は、IPTV の配信や金融機関の相場配信、社内の機器探索など、管理の行き届いた1つのネットワークの中です。
- ユニキャスト
- 1対1の通信。N人に届けるにはN回送る。
- ブロードキャスト
- 同じLANの全員に送る。1回で済むが、ルーターを越えない。
- マルチキャスト
- グループに参加した端末にだけ送る。ルーターを越えて届けられる。
- IGMP
- 端末が「このグループに入る/抜ける」をルーターに伝えるための仕組み。
- ブロードキャストドメイン
- ブロードキャストが届く範囲。ルーターで区切られる。
まとめ
ユニキャストは相手の数だけ送るので送り主が疲れ、ブロードキャストは1回で済むが全員を起こすうえに校舎の外へは届かない。マルチキャストは1回だけ送り、手を挙げた人にだけ届ける。図1で部員の数と場所を変えながら3つを切り替えると、「送る回数」と「起こされる人」のトレードオフがそのまま見えます。